19回日本老年精神医学会

625日(金)A会場(中ホール)

 

薬物療法

座長:柴山 漠人(高齢者痴呆介護研究・研修大府センター)

 

 


痴呆性高齢者の睡眠障害に対するparoxetineの効果

都甲 崇1),平安良雄2)  

1)
横浜舞岡病院(現,横浜市立大学医学部精神医学教室),
2)
横浜市立大学医学部精神医学教室

TA-9

 

【はじめに】高齢者では,深睡眠の減少や中途覚醒の増加といった加齢による睡眠構造の変化,さらに身体的要因や精神的要因によって,睡眠障害の頻度が増加することが知られている.高齢者の睡眠障害に対する薬物療法でも,若年者の場合と同様にベンゾジアゼピン系の睡眠薬が使用されるが,高齢者では,呼吸抑制や筋弛緩作用による転倒の危険が高く,その使用には十分な注意が必要である.また,これらの副作用のために,その使用によっても十分な効果が得られない場合には,ベンゾジアゼピン系睡眠薬の増量や追加ではなくmianserintrazodone等の抗うつ薬が追加されることも多い.Paroxetineは,比較的鎮静・催眠作用が強いSSRIであり,海外では睡眠障害に対する効果が報告されているが,我が国ではこうした報告はほとんどない.今回,演者らは,ベンゾジアゼピン系睡眠薬やmianserintrazodoneによって十分な効果が得られなかった睡眠障害に対して,paroxetineを使用し効果が得られた痴呆性高齢者の症例を経験したので報告する.

【症例】症例はいずれも横浜舞岡病院に入院中,もしくは外来通院中で,睡眠障害を有するアルツハイマー型痴呆の患者である.いずれの患者と家族に対しても,ベンゾジアゼピン系睡眠剤で効果が得られない睡眠障害に対しては,抗うつ薬を使用することを口頭で説明し同意を得た.3症例では,ベンゾジアゼピン系睡眠剤にtrazodoneを追加したが十分な効果が得られなかったために,torazodoneparoxetineに変更し,いずれの症例でも症状の改善が得られた.ベンゾジアゼピン系薬剤のみの治療で十分な効果の得られなかった4症例に対しては,paroxetineを追加し,いずれも症状の改善が得られた.以上の症例では,paroxetineによる明らかな副作用は認められなかった.さらに,2症例では,ベンゾジアゼピン系睡眠剤で十分な効果が得られず,mianserinを追加し睡眠障害に対する効果は得られたが同時に副作用としてふらつきが出現したために,mianserinparoxetineに変更した.いずれの2症例でも,mianserinからparoxetineへの変更によって,ふらつきの改善が認められた.このうち1症例ではparoxetine 20mgによって睡眠障害の改善が得られたが,1症例では40mgの内服によっても十分な効果は得られなかった.

【考察】Paroxetineは,ベンゾジアゼピン系睡眠薬で十分な効果が得られない高齢者の睡眠障害に対する追加薬として,その効果と副作用の点から有効である可能性が考えられた.少数例での経験であり,その薬効を述べることには慎重でなければならないが,その効果はtrazodoneより強い印象であった.また,mianserinとの比較では,効果は劣るものの,忍容性が高い印象であった.今後,paroxetineの,高齢者の睡眠障害に対する,多数例を対象とした検討が行われることが望まれる. 

 

 



Paroxetineが著効したうつ病の88歳男性

西村 浩

  厚木市立病院精神科

TA-10

 

体調不良,倦怠感,不眠,食思不振,意欲低下および将来への不安を訴えて精神科を初診した88歳男性に対しparoxetineが単剤にて著効を示した.超高齢者への投与であるため,10mgから開始したが,強い希望により20mgに増量したところ,6週間後に症状は著明に改善して消失した.超高齢者への抗うつ剤投与に関する考察を加えて発表する.
症例:1914年生,男性.
主訴:体調不良,倦怠感,不眠,食欲不振,意欲低下,将来への不安.
起始経過:20036月より主訴が出現,「くよくよ考え悩み」好きな山歩きもしなくなったため,同年92日精神神経科初診に至る.
既往歴:87歳,胃潰瘍治癒.
家族歴:6人兄弟長子.妻とのあいだに一女を儲ける.精神科的遺伝歴はない.
性格:内気,几帳面,神経質.
生活歴:美術学校卒.宣伝関係の会社員を定年退職.84歳の妻との二人暮らし.
嗜好:飲酒0.5/日,喫煙70歳にて禁煙.
自転車にての単独受診,表情は穏やかで発語および歩行も正常である.睡眠は中途覚醒があり,食欲も不安定とのことだが体重減少はない.
抑うつ気分は認めるが,希死念慮および自殺企図は否定.
うつ病との診断および88歳と超高齢であることからparoxetine 10mg/1x就寝前投与開始.
1
週間後「妻が寝込み救急受診して心配」なこともあり不眠とのことで以前服用して効果のあったという「ネルボン」希望するため,nitrazepam2.5mg追加投与開始.
2
週間後,中途覚醒は改善したが,意欲の低下は不変.投与継続.
4
週間後,一進一退であり,paroxetineを増量して欲しいとの希望あり,20mgに増量.
6
週間後,「だいぶ落ち着いてきた」と抑うつ気分に改善認めるため20mgにて続行.
10
週間後,「あまりくよくよ考えなくなってきた」と症状消失.
12
週間後,「もう睡眠薬なしで眠れます」とのことでnitrazepam投与中止.その後も安定した経過が続いている.
なお本学会での発表に関して本人の了承を得ている.